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帯電理論数値解析ソフトウェア(MUSCAT)の開発

はじめに

2003年10月に極軌道人工衛星「みどり2」(ADEOS-II)の電力全損に伴う衛星の全損事故が発生しました。この事故は後に宇宙環境との相互作用による衛星の帯電・放電現象が原因であると結論づけられました。このような事故を繰り返さないためには、設計段階から帯電・放電の観点に立った検討を正しく行うことが必要です。
MUSCAT解説1
図1

特に、衛星の周辺プラズマに対する電位および衛星構造体と各表面の誘電体との電位差は、帯電放電の検討を行う際に最重要の基礎データです。今後の地球観測衛星の極軌道での運用を万全のものとするには、設計段階から反映できるような衛星電位の解析ツールが必須です。(図1.衛星帯電検討の現状とMUSCAT開発後を参照)

極軌道衛星は低エネルギー(0.1~0.2eV)の電離層プラズマと高エネルギー(>1keV)のオーロラ帯粒子が混在する特異なプラズマ環境にさらされます。
一方、軌道傾斜角の小さな低軌道は極軌道と比べて低エネルギー粒子が支配的な環境であり、逆に静止軌道は高エネルギー粒子が支配的な環境ですが、極軌道衛星用に開発された解析ツールに修正を加えることでこれらの場合にも適用できるようになります。これにより、ISSや天文・科学衛星などの低軌道衛星から、ETS-VIIIに代表される大型の通信放送衛星等の帯電解析にも適応可能となります。

現在の世界の衛星開発では衛星帯電の解析ツールとして米国で70年代に開発されたNASCAP/GEO(静止衛星用)、NASCAP/LEO(低軌道衛星用)が導入されています。これらのソフトは、世界のデファクトスタンダードとしての地位を確立しています。また、極軌道衛星を解析するためには、米国で80年代に開発されたPOLARというシミュレーションコードを新たに導入することが必要です。しかし、NASCAP/GEO、LEO、POLARはいずれも70-80年代の技術水準で作成されているため、ユーザーインターフェイスなどの使い勝手が悪く、また衛星モデリングの制限などの欠点があります。
現在NASCAPシリーズの後継としてNASCAP-2000という静止軌道・極軌道・低軌道の全てに対応した統合改良版コードが米国で開発・使用されていますが、輸出規制のために日本国内で使用することはできません。また、欧州では2002年よりESAの資金援助でSPISというコードが開発中であり、2005年度には完成の予定となっています。
一方、日本国内では京都大学を中心とした宇宙プラズマシミュレーショングループが地球シミュレータを用いて「宇宙環境シミュレータ(Geospace Environment Simulator:GES)」開発プロジェクトを推進しており、その一部として、衛星周辺のプラズマ環境解析用シミュレーションコードを開発中です。
「宇宙環境シミュレータ」による宇宙機近傍環境解析では、宇宙プラズマを代表粒子群として取り扱い(Particle-in-Cell:PIC法)、非定常から定常状態に至るプラズマ過程を全て解き進めるため、世界最速の地球シミュレータを用いても、衛星の帯電の時定数(数秒から数分)にわたる計算を行うには膨大な計算時間と計算機資源が必要であることが予想され、衛星設計段階でいくつかのパラメータを振って計算を行うという手軽な運用目的には適していません。

このような背景から、本研究プロジェクトでは、今後の衛星開発において、極軌道、低軌道衛星から静止軌道衛星までの設計段階からの帯電障害のリスク評価から運用中の衛星の不具合解析までをおこなう汎用の衛星帯電解析ソフト(Multi-Utility Spacecraft Charging Analysis Tool:MUSCAT)を開発することを目的としています。MUSCATの開発は、JAXAの受託研究として2004年11月にスタートしました。ソフトウェアの開発主体は九州工業大学であり、GUI・ソルバー開発、並列・高速化、検証実験等を実施しています。その他に、宇宙環境パラメータデータベース作成、検証実験、軌道データ検証、地球シミュレータとの比較などの作業を、JAXA、京都大学、極地研、NICTの研究者と共同で進めています。

MUSCATの特徴

MUSCATは大規模計算コードですが、数値計算を専門としない衛星技術者が衛星設計段階においてこれを活用できるように以下の機能を備えています。


  • MUSCATひとつで代表的な衛星軌道の、低軌道、静止軌道、極軌道それぞれの宇宙環境下での宇宙機帯電解析を実現可能な汎用ソルバーを持っています。
  • Graphical User Interface (GUI)機能によって、ユーザは三次元衛星モデリングおよび衛星材料等のパラメータ入力を視覚的に行う事が可能です。計算結果も可視化して出力し、解析結果をすぐに検討する事が可能です。
  • 並列化計算とアルゴリズムの最適化による高速演算機能を持ち、市販のMulti-CPUワークステーション(WS)クラスのプラットフォームで、宇宙機帯電計算を行うことが可能です。最終版では計算資源に対して最も厳しい条件となる極軌道衛星の帯電解析が半日程度で終了することを目標としています。(最大計算空間格子数256x128x128、最小空間解像度3cm)
また、日本語・英語マニュアルを完備し、3日間程度のトレーニングで初心者でも基本的な操作ができるようにすることを目標にしています。(図2.MUSCAT完成時点の成果と将来の見通し参照)。
MUSCAT解説2
図2

MUSCAT動作手順

MUSCATはWindowsRPC上に実装されたJAVAベースの新規開発統合GUIツール“VineYard”によって、ユーザのパラメータ入力、WS上ソルバーへのインプットファイルの引渡し、計算結果の出力までの一連の動作を実行します。パラメータ入力には任意形状の3次元衛星モデリング、衛星表面材料に関する材料パラメータ、背景プラズマ密度や温度といった宇宙環境パラメータ、そして、計算の制御に関係する計算パラメータの4つのパラメータ入力が含まれ、それぞれに対応したGUI画面が用意されています。パラメータ入力終了後、新たに開発したGUI-Solverコンバータによって、任意形状の衛星モデルを計算用矩形格子に変換します。これによって、GUIからの入力パラメータは計算用インプットデータに変換され、WS上ソルバーに引渡されます(現時点ではファイル転送ソフトによるマニュアル制御によってPCとWS間のデータ転送を行っています)。

MUSCAT開発ロードマップと開発の現状

MUSCAT開発は2004年11月から開始され、2007年3月にVer.1.0がリリースされました。現在では、MUSCATをベースとして起業されたベンチャー企業、 MUSCATスペースエンジニアリング株式会社 から、衛星設計用商用ソフトウェアとして販売されています。

衛星モデリングと材料パラメータ入力画面
統合GUIツール“VineYard”の外観.衛星モデリング画面(左)と材料パラメータ入力画面(右)

人工衛星外観と帯電解析結果
実機の解析例.人工衛星WINDS外観(左)とMUSCATによる帯電解析結果(右)

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